顔身体学とは
トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築
—多文化をつなぐ顔と身体表現
顔・身体学とは
本研究領域では、顔と身体表現の意識化されない点を意識化することにより、文化の中で閉じたコミュニケーションを理解し、異文化が相互に行き交うトランスカルチャー状況下における他者の受容を導く。顔や身体は目前に物理的に存在する対象であるため、多様な分野の共通の研究対象となりうる。現実の顔や身体表現とその認識様式を実証的に検討し、文化的多様性とその背景要因を調査する。またそこからメカニズムの解明や社会組織上の再考が可能となり、顔と身体表現から時代や社会を考察することもできる。人文社会を中心としたアプローチで、トランスカルチャー状況下における顔身体学を考える。
領域代表挨拶
顔と身体は常に個人の由来を露出し、かつ顕著に表現し、あるいは個人が何者であるかを読み解くことができる、隠すことのできない媒体です。グローバル化が叫ばれる現在、これまで無意識に行ってきた顔と身体にかかわる営みを意識化し、それぞれの文化で「当たり前」とされてきたことを再考していきたいと思います。
インターネットの普及で、世界に向けて気軽に意見を発信できるようになりましたが、その媒体は言語としても、感情をダイレクトに表すのは「顔文字」であったりします。また、世界に向けて自分自身を示すプロフィール写真で使われるのも、「顔」です。インターネットの普及により、現代社会に生きる人類は、これまでにない大量の顔と身体表現にさらされています。顔や身体という媒体において、われわれの社会はかつてないほどに膨大に広がったともいえるのです。メディアの進化に付随して、顔の越境化は進みます。
一方で依然としてアンタッチャブルとされた異文化は、意識の外に存在したままの状況です。たとえば、自分と違う肌の色、自分とは違う身振りや手ぶりに忌避感を感じるのは、心理学の観点からいうとごく自然なことですが、グローバル化された世界の中で、こうしたヒトの持つ本性は依然隠されたままです。「身体的に知ること」を封印してきたことに対し、意識化して理解すべき段階にあるのではないでしょうか。
この領域では、顔と身体を扱ったさまざまな研究を融合していきたいと思っています。古典的な文学作品に残された顔や身体表現から、その社会・文化的な背景を読み解くことができるでしょう。それぞれの人物の顔と身体をどのように表現してきたかにより、その文化が何を重要視し、何に注意を払っていたかを解析することができると思います。これまで個別に検討されてきた事象を統合することにより、新たな研究の視座を提供したいと考えます。
トランスカルチャーとは、混在した多様なカルチャーの「越境」の試みといえましょう。無意識を意識化することによる他者理解を、提供していきたいです。また越境する対象は社会・地域だけではなく、自身の性や身体そのものまでも含みえます。身体表現は時代によって変わります。イスラム圏でのベールの使用の多様性は、設定された規範から逸脱していく歴史を語るものではないでしょうか。このように個人と社会の関係を見つめ直すことにより、社会や個人の生き方を変える価値観を提供できたらと思います。本領域ではマクロとミクロの循環的な関係を基礎にした、人文社会の新たな学問領域を確立していく試みを続けていきます。

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